寝返りのバイオメカニクス:機能的動作の神経筋制御と評価の視点
1. 寝返りとは何か? ── 機能的役割と臨床的意義
寝返り(rolling)は、ヒトの発達運動の初期段階における重要な移動手段であり、姿勢制御の獲得・体幹と四肢の連動性の学習・左右の筋活動の分化に寄与します。成人においても、ベッド上での体位変換や、動作の起点としての寝返りは、運動学習・再教育の入口として重要です。
2. 寝返りの基本的なバイオメカニクス
2-1. 姿勢制御と重心移動
寝返りは「背臥位 → 側臥位 → 腹臥位」またはその逆の回旋動作であり、重心(CoG)の横方向への移動と回旋モーメントを用いて行われます。
開始前:背臥位にて重心は支持基底面(背部全体)に広く分散
回旋中:四肢や体幹の回旋により重心が身体外縁部に移動
到達時:側臥位または腹臥位において安定性を再構築
2-2. 関節運動の連鎖
頸部:頭部の回旋が運動のトリガー
体幹:脊柱の分節的回旋(特に胸腰移行部)が重要
骨盤:骨盤のローテーションと、下肢の動きとの連動性
肩帯:肩甲帯と上肢の分離・協調運動が必要
3. 神経学的・感覚統合的な制御機構
3-1. 脳領域の関与
前庭核:重力に対する頭部の位置感覚
小脳:動作の協調性・タイミング制御
一次運動野・感覚野:左右差の調整と随意運動の制御
島皮質・体性感覚皮質:触覚・皮膚感覚による身体図式の更新
3-2. 感覚入力の利用
体性感覚(表在・深部):皮膚刺激や関節位置覚で動作を誘導
視覚・前庭覚:空間認識と重力方向の把握
皮膚牽引:背部・胸部・側部の皮膚を方向付けに活用可能(例:背部皮膚を上方に牽引→脊柱伸展誘導)
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